〈左:生糸で織られた江戸期の熨斗目〉 〈右:紬糸で織られた経縞文様の紬〉
絹は、麻やその他の靭皮繊維と同じく、太古(弥生前期)から日本で用いられてきた素材です。
それらはもともと、大陸から渡って来た人々により、もたらされたと考えられています。
私達はそのことをいつも忘れがちのようにも見えますが、
絹に限らず、染織や工芸、生活における様々な技術の多くは、
海の向こう側から、既にそれらを身につけていた人々によって、
もしくは、完成された品々によって、最初伝えられました。
特に絹は、中国ではその扱い方や技術を、
他国に対して長い間秘密にしてきた特別な素材でしたが、
日本へはとても早い時期に、技術や製法を開示したものです。
繭からの糸の引き方、さらに、絹糸の特性をより良く活かす、
織の複雑な製織技術についても、大陸の技術者たちを日本へ派遣し、
その技術を根付かせたことが、記録に遺されています。
〈真綿から引いた、結城紬用の手紬糸〉
絹は、蚕が吐き出して作った繭を原料とする素材です。
蚕は生き物ですので、これは動物性たんぱく質を含む繊維であり、草木染めの染色に、とても良く適しています。
絹が尊ばれたのは、他の素材よりはるかに優れた、発色の美しさも大きな理由のひとつです。
繭からは、大きく分けて2種の糸と生地が作られます。
ひとつは、繭から極細の繊維を数本ずつ、均一に束ねながら引き出す「生糸」です。
そして、生地の表面がツルツルとして均一で、光るような光沢感があれば、
それは生糸を用いた『絹』の生地です。
もうひとつは、繭を広げて真綿状にしたものから、紬ぎ出して糸を引く「紬糸」です。
本来、紬糸や紬織物は、生糸をとることが出来ない不良繭(玉繭、穴あき繭など)を原料とし、
大事に育てた繭を全て使いきるために、作られていたものでした。
木綿に似た柔らかさがあり、織り密度にも左右されるかもしれませんが、
ふっくらとした表情があれば、それは紬糸を用いた『紬』の生地です。
紬地には、経緯の糸に紬糸を用いる場合もあれば、
経糸には生糸を、緯糸のみに紬糸を用いる場合も多くあります。
また、伝統織物に関しては、昔々の「紬」という名を残し、
実際には生糸のみで織り上げた生地を、紬と呼ぶこともあります。
大したことを記せておりませんので、参考文献も次回へ。
(つづく)