お知らせと日記news+blog

  • category

  • archives

    • 2022 (14)
    • 2021 (21)
    • 2020 (4)
    • 2019 (5)
    • 2018 (8)
    • 2017 (51)
    • 2016 (142)
    • 2015 (98)
    • 2014 (26)
  • 「麻」のはなし 2
  • 2016.06.23.Thu

 

代表的な「麻」の種類として、
亜麻/ linen 、大麻/ hemp 、苧麻/ ramie・china grass
を挙げましたが、
このうち、日本で古来から自生・栽培・製織してきたのは、
大麻と苧麻でした。

 

大麻はアサ科の一年草で、原産地は中央アジアから西アジア、西北ヒマラヤといわれています。
日本へは、おそらくシルクロードを通って、縄文創草期(約1万年前)には渡来したと考えられ、最古の出土品として、福井県の鳥浜貝塚から、大麻繊維の縄や編布(残欠)が確認されています。
それ以降にも、縄文や弥生時代の資料として、編布や織物の残欠が、複数出土されています。

 

苧麻は、イラクサ科の多年草です。外来種である説もあるそうですが、日本では本州から沖縄までの広い地域で育つ植物です。(現在でも自生しています。)
苧麻も、縄文晩期や弥生時代の編布や織物の残欠が、複数出土されています。

 

縄文、弥生、古墳時代までに、日本で衣料や道具等として利用されたと考えられている素材には、大麻、苧麻、赤麻(アカソ)、絹、藤、科(シナ)、楮(コウゾ)、葛などがあります。

中でも特に絹、大麻、苧麻は、出土資料の状態などから、主に衣料として用いられていた可能性が高く、点数も多いようです。(他の素材も、衣料として使用された可能性はあります。)

数多い自然素材の中から、衣料や生地として最適な素材が、この頃既に淘汰されていたという事かもしれません。

 

以降も、時代が進む中で、日本の麻布、大麻と苧麻は、日本特有の気候風土と文化の中で、利用され続けていきました。

例えば、奈良時代の染織品(正倉院宝物)の中にも、衣装や包布、地図の生地など、様々な用途や形態の麻布が遺されています。その数は、絹に次いで多いようです。

また、平安、鎌倉時代の文献や和歌、絵巻物などの創作物にも、麻布が生成りの生地や、柔らかな晒布など、用途に合わせて加工され、用いられていたことが推測できる記述が遺されています。
特に平安時代の染織資料は、現在殆ど遺されておらず、確認することができませんが、当時の彫刻や紙製の資料を観ると、きっと繊細な絹生地とともに、柔らかな麻布などが衣服に利用されていたのでは、と想像することもできます。

 

Exif_JPEG_PICTURE     Exif_JPEG_PICTURE
 
〈写真、黄は大麻。白の晒布は苧麻又は大麻。生成りはおそらく大麻。〉
 

時代が進んで江戸時代、日本の麻布は技術と生産量で、最盛期を迎えていました。

原料の生産方法は勿論、糸の撚り具合、糸の素材の取り合わせ、織り密度などをはじめ、各地で競い合いながら、高い技術が発達していったようです。

江戸時代と聞くと、雅で豪華な小袖衣装が思い浮かびますが、そうした中にも、麻布に染めや刺繍を施した夏の麻衣装、帷子(茶屋辻染など)があります。
その帷子の生地、真っ白く晒した上布の最上級の品は、まさに『絹のように細緻』(『和漢三才図会』)であったといいます。
江戸時代の最上級の麻上布には、いまでも稀に出会うことができ、その手触りはまさに柔らかな絹、もしくは薄手の木綿布のようです。

このように、大麻や苧麻から上質な細い糸を績み、細緻に織り上げた布に手を加え、薄く柔かな風合いの上布が生産されていたことは、近年の研究で明らかになっています。

 
また、この頃に発達したと考えられる、麻織物の絣や型染めを行ったのは、日本の染織文化だけに見られる特徴です。(他国では、絹や木綿に、絣や木版染めを行っています。)

越後上布や奈良晒、近江上布などと共に、沖縄の豊かな染織文化のひとつ、八重山や宮古をはじめとする苧麻織物、沖縄の上布の素晴らしさも、忘れることができません。

 

このように、日本人の衣料として、絹・大麻・苧麻は主流の素材であり、さらに複数の靭皮繊維(麻を含む)が、衣料や生活道具に用いられてきたことは、古来から連綿と続いてきた、日本の生活様式でした。

そして、日本の染織技術は、稲作やその他の工芸的技術と同じく、初めは大陸から伝わったものでありながら、古来から続いてきた麻布の利用が、日本の自然環境や歴史的背景、そして独自の美意識により、他の何処にも無い、豊かな染織文化を作り上げました。

織物が織りあげられるまでの、途方もなく手間のかかる工程や、歴史的背景を思うと、複雑な気持ちにもなりますが、様々な要素を踏まえながら、日本の染織物の文化を、大事に辿っていきたいと思います。

(長くなりましたので、続きはまたいつか次回へ。)

 

*より詳しく、正確にお知りになりたい方は、お手数ですが様々な研究書をご確認ください。

今回の参考文献

『絹の東伝』布目順郎、1988年、小学館
『別冊太陽 日本の自然布』2004年、平凡社
『藍から青へ 自然の産物と手工芸』石田紀佳、2007年、建築資料研究社
『世界織物文化図鑑』ジョン・ギロウ、ブライアン・センテンス、2001年、東洋書林
『染織事典』中江克己、1981年、泰流社
『東洋文庫462 和漢三才図会5』1986年、平凡社

 

追記

亜麻(リネン)は、エジプト王朝時代(紀元前2800年頃)のシャツに似た上衣が、現存最古の亜麻布といわれ、古来から長い歴史のある素材です。エジプトやユーラシア大陸など、広い地域と文明で用いられてきました。
日本の風土には自生せず、用いられてきた歴史もありません。
明治以降、北海道や静岡では栽培したという記述を見たこともあるのですが、不勉強のため、教草はそれ以上の確認を怠っています。