表裏に、異なる型染めがなされた一枚。
片面は、中くらいの花柄文様。花弁や葉の形も丁寧に描かれています。
もう一方は、点々とした細かい地紋に、
小さく蝶や草にも見える、花のような文様を散らしています。
幕末や明治頃の型染めは、片面染めであったり、
両面染めであったりはしますが、表裏に全く異なる柄が染められたものを、
私は見たことがありませんでした。
この裂は、片面を江戸時代に染め(細かいほう)、
明治に反対側(中くらいの花柄)を染めたものだそうです。
江戸に型染めを施した後、
おそらくそのまま、反物の状態で眠っていたのでしょうか。
明治になり、売れ残っていたその木綿布を用いて、
時代に合った新しい柄を染め直したというわけです。
この端裂を眺めると、他ですぐには見かけない柄や、
年月を過ごした雰囲気に、ぐんと心を掴まれるのですが、
そういった由来(少し大袈裟)を聞いてこそ、
この布を少し知ることが出来たと思えます。
他にも沢山の話(経緯)を含んでいるのでしょう。
裂や布の魅力、古いものの楽しみは、
こういう所にあるのかもしれません。
「時代跨ぎ(またぎ)型染め」としましたが、
古いものはなんでも時代をまたいでいるので、
間抜けな名を題してしまったかもしれません。
しかし思わず、そう呼びたくなる一枚です。
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